#すっぴんを考える01 ~厚さ2mmの相思相愛【美容ライター長田杏奈の連載コラム】
2019/04/05
コラムニスト : 長田杏奈
その面積は、だいたい畳1畳分。肌は、私たちの体を包む「最大の臓器」だ。
健気にもたった2mmぽっちの厚さで外界と体内を分け、防護服のようにたくさんの刺激から守ってくれている。
心臓や肺や脳などの臓器とちがい、
肌がちょっとぐらい荒れたところで命に別状はないし、健やかに生きていくことはできる。
けれど、私たちは、肌の調子に一喜一憂し、スキンケアに精を出す。
だって肌は、オギャーと生まれたその瞬間から一人ひとりに与えられた一点もので、一生付き合っていくボーンスーツ。
どんな高級デパートでもセレクトショップでも取り扱っていないし、飽きたり気に入らなかったりしても返品も交換もできない。
だから毎日、コツコツと自力でお手入れして、なるべくいい状態に保つ工夫をしながら、時を重ねていくのだ。
洗濯物をゴシゴシ洗って炎天下で干せば、たちまちシワになったりゴワついたりしてしまうように、
肌も日々どう扱いどんな手入れをするかで結構ちがう。
だから、触るときはやさしいタッチで、
洗うときはおしゃれ着用のデリケートコースのように丁寧に。
潤いを与えて柔らかくしなやかに保ったり、
外に出るときは日焼け止めを塗ったりするといい感じだ。
自分なりに観察しながら世話を続けて、
「今日の肌、ちょっといいかも」と思えた日は、気分がいい。
肌を褒められときは、飾りたててないありのままの自分や、日々を暮らす姿勢まで褒められたような気になることも。
もちろん、「こんなはずでは」という日もある。よくある。
けれど、期待通りではない日の肌を、どうか嫌いにならないでほしい。
肌は日々、体の最前線で臓器としての役目を果たしている。
お風呂に入ったときお湯で体が膨れてこないのも、
歩いているうちに体の中身がぽたぽた路上にこぼれたりしないのも、
肌が私たちを包み、守ってくれているから。
そう、肌はとっても頑張っている!
「ちゃんと食べてる? 寝てる? ストレス溜めてない?」
肌がイマイチなときは、いつもより自分を気遣って、強がり抜きの「本音」に耳を傾けてあげよう。
(コツは、自分の中で泣いている、迷子の幼児に声をかけるように)。
専門家の知恵を借り、スキンケアを見直し、
それでもどうにもならなかったら、
いっそ「これも個性だ」と割り切って、
少し違うことに目を向けてみたり。
・・・それがなかなか難しいのだけれど、
たった2mmぽっちの皮一枚であなたの尊さは変わらないよ、
大丈夫大丈夫と言い聞かせて安心させよう。
自分の肌と向き合うのに、遅すぎることはないと、身をもって証明してくれたのは、とある60代後半の女性。
白内障の手術を受け、視力が回復した彼女は、鏡にうつる自分の肌を改めてくっきりと見たとき、
想像以上にしわくちゃでシミだらけで、「まるで自分をほったらかしの、汚いおばあさん」という印象だったことにショックを受けた。
そこで過ぎた時を惜しみ、身の上を恨んで悲嘆にくれるのではなく、
切り替えて美容皮膚科の門を叩いたのが、彼女の勇敢なところだ。
レーザーでひとつひとつシミを取るということはせず、
ビタミンCのイオン導入にせっせと通い、
教えられたスキンケアをひたすら真面目にコツコツと続けた。

1、2ヶ経った頃だろうか。再会した彼女には、シミもシワも相変わらず、あるにはあるのだけれど、
手入れが行き届いたきめ細かく透明感のある肌の上では、心を曇らせていたはずのシワもシミも、何か神々しく、
そんじょそこらの若いもんには到達できない歴史に磨かれた風格美に圧倒された。
何より、丁寧に手をかけて肌が変わったことによって得た、自信が違った。
瞳の輝きも背筋の伸びも笑顔も、本当に別人のようだった。
長年放置していた肌は、手をかけることでちゃんと応えてくれた。
20歳や30歳若返ったわけではなく、モデルや女優級の美女ではなくても、
自分の変化や輝きに満足して、肌と相思相愛になった彼女は、衝撃的に美しかった。
10年以上経った今も、その姿をありありと思い出せるくらい。
今も時折思い出して、勇気をもらっている私のスキンケアレジェンド。
自分なりに凛と等身大に美しくあることの、眩しさを教えてくれた。
肌も、肌に包まれた自分も。
どんな日も見放さず、毎日向き合うことに意味がある。
だから、良い時も悪い時も、やさしく見て、触れて。
長い目で付き合って、仲良く暮らそう。
私たちのすっぴんに、幸あれ。
Profile

長田杏奈
「美容は自尊心の筋トレ」をモットーに、美容ライターとして雑誌やwebメディア等で多くの記事を執筆。また、SNSでも「おさ旦那」の愛称で美容情報を発信している。著書「美容は自尊心の筋トレ 」(Pヴァイン)が2019年6月19日(水)より発売。