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看護師を経て自分を見つめ、好きだったメークの道に – メークアップアーティスト・早坂香須子

相手を包み込むような優しいオーラと柔和な笑顔が印象的な、メークアップアーティストの早坂香須子さん。国内外の数多くモデル・女優のメークを手掛けるだけでなく、植物学やアロマテラピーの深い知識を持つことからオーガニックプロダクトを監修されるなど、多岐にわたり活躍されています。
今回はそんな早坂さんに、看護師時代を経てメークの道に進むまでのお話や、ご自身の肌歴、メークに対する思いまで、たっぷりお話しいただきました。3回にわたってお届けします。


―まずは、早坂さんがメークの道に進まれた時のお話から伺っていきたいと思います。著書などでは、社会人としてのスタートは看護師だったと拝見していますが。

はい、23歳頃までの3年間、大学病院に勤めていました。外科病棟でしたので仕事自体はやりがいがあり楽しかったんですけれど、本当にやることが多くって。2~3年目になってくると、ナースコールを受けた時に自分でも気づかずに舌打ちしてしまうような私がいて、看護師をやめる一番のきっかけになった出来事がありました。

―はい。

ある夜隣のチームが担当する患者さんからナースコールがあって、「足をさすってほしい」ということで、私がその患者さんのもとに向かったんですね。普通、ナースコールは最終手段だと思っている患者さんがほとんどだと思うんですけれど、その時は“こんなにたくさんやることがあるのに、足をさすれって”という気持ちになりました。呼ばれたからには私も足をさすったんですけれど、すぐにその患者さんから「お前はいいから先輩を呼んできてくれ」と言われてしまって…。

―その時の早坂さんの頭の中には、ほかのやるべきことがたくさん浮かんでいたように思います。

初めはどうして私ではだめだったのか分からなかったんですけれど、自分の業務が終わってから先輩のところに行くと、まだその患者さんの足をさすっていました。まっすぐに、その方を見ながらさすっていて、“私、一度でもこの患者さんのことを見てたかな”って。ショックだったのは、その患者さんがその日の朝がた数時間後に、急変して亡くなったこと。
数時間後に死ぬという時に、魂レベルで人のぬくもりを求めたと思います。そんな時に心のない手で触られて、どれだけ気持ちが悪かっただろうなと。私はここにいるべき人間じゃないと感じました。


―それからメークというまったく異なる道が浮かんだのは、どのような理由からでしょう。

その出来事の後、“私って、人を見もしないで肌を触ったりとか、ナースコールに舌打ちするような、そんな人間だったかな”と考えました。そんな人間ではないはずで、では何をしている時に自分がハッピーなんだろうかと。自分が好きなことをしていないと人になんて向き合えないし、笑顔でいることもできないなと。それならば、好きなことを考えようって。

―そうして浮かんだのが、メークの道だったのですね。

最初は探してもなかなか見つかりませんでしたが、ある時ふと、子供の頃に母のメーク道具を触ることが好きだったと思い出しました。母が仕事に出ていた時間にメーク道具を広げて、スキンケアから真似して。すごく不思議なんですけれど、私は当時から赤リップやチークやマスカラよりも、どうキレイに肌をつくるかということに興味があったんです(笑)。当時カーマインローションというふき取り化粧水が流行っていたので、そういうもので肌をふき取って、乳液をのせて、ファンデーションで均一に肌をつくってみたいなことで満足して。“すっごく肌がキレイになったな”って(笑)。

―変わった小学生でしたね(笑)。

そうですよね。女性の顔を書いて、そこにパステルで色付けするということも子供の頃にやっていて、女性の顔や肌をどうキレイにするかということが好きな小学生だったんです。“メーク、好きなのかもな”と思って、23歳で看護師をやめて、ヘアメークアップアーティストの渡辺サブロオさんが当時やっていたメーク学校に入りました。


―渡辺サブロオさんと言えば、日本の先駆的なヘアメークアップアーティストですね。どのようなことをメーク学校では学びましたか?

半年がメーク、半年がヘアの授業でしたが、最初は1950年代頃からの社会背景とファッションの歴史、時代ごとのメークを学びました。またその時は、人生で一番映画を観た時期で。古い映画から、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーなどヨーロッパの映画監督も知って、メークの技術的なことはもちろん、そういったバックグランドまで学べたことが大きな財産になったと感じています。
ただ、半年後にヘアのクラスを取ったんですけれど、私にはヘアがまた、すごくつまらなくって(苦笑)。全然できなかったんですよ(笑)。

―早坂さんは今、ヘアメークではなく、“メーク”アップアーティストとして活動されていますよね。

実は、最初は “ヘアメーク”として仕事を始めましたが、その時からヘアとメークは考え方もアプローチもまったくの別物だという思いがありました。ヘアプロダクトは顔につけたくないようなケミカルなものも多かったので、ヘア道具を触った手でメークしたくもなかったという気持ちもあったんですね。そんな時、パリから帰国するメークアップアーティストのyUKIさんがアシスタントを探しているという話を聞いて、“え、メークアップアーティストってメークしかしないの⁉”と驚いて。
当時はヘアとメークをセットですることが当たり前。その人に会ってみたいと思いお会いすると、彼女の人柄に恋をしてしまって。念願叶ってアシスタントに入り、1年間、“メーク”アップアーティストの仕事を見ることになったんです。

―yUKIさんのアシスタント時代を振り返って、いかがでしょうか。

彼女との出会いによって、メークの概念が完全に変わりました。当時のメークは下地をぬってファンデーションをぬって、コンシーラーをつけて粉をバッとはたいて、完璧につくるメークが主流。ひらすら粉をうって、それをどうナチュラルに見せるかという感じでした。
それがyUKIさんは、一切粉をうちません。彼女はモデルさん本来の肌が透き通って見えるような、みずみずしい肌を私たちに見せてくれて。そして、そのツヤのある水の膜を張ったようなスキンベースに合うボディまでマッサージで作っていき、1枚の写真になった時にトータルで美しい、統一感を大切にしていました。メークに入る時もクレンジングから始めてトナーで拭いて、モイスチャライザーでマッサージをして、そこからやっとファンデーションに入るんですよ。


―メークに対する見方が大きく変わる、現在の基礎ができた時期だったのですね。今の早坂さんは、好きなことを仕事にし、それで輝いている女性という印象がありますが、ここに至るまでにいろいろな葛藤があったことと思います。自分自身の人生を掴んでいくコツについても教えてください。

20代後半や30代になってくると、積み上げた生活を変える恐怖も出てくると思います。でも、本当に腹で決めさえすれば、何でもできると思うんですよ。制限をつくるのは自分だなって。私も、25歳でアシスタントについてからメークだけでやっていけるまでに7年かかりました。言い訳をつくらずに決めて行動することが大切だと感じます。

初めはバリバリのモード誌で活躍する、“メークアップアーティストの早坂香須子になりたい”と思っていました。けれど、思い描いていることと現実が違いすぎて、「今はストリートブームになっちゃって、モードができないから」なんていじけていたんですね。
そんな時ふっと周りのせいにするのを辞めてみたら、持っているものがいっぱいあると気がついて。例えば、看護師の免許を持っているからあせらなくてもアルバイトで生活できましたし、アシスタント時代に築いた仲間たちと、毎週作品撮りを始めて。そうすると、その時の仲間が雑誌の方に私を紹介してくれて、いきなり良い仕事につながったりするようにもなったんです。


―確かに、目標に向かって頑張り尽くした時に、上手くいかなかったら怖いという気持ちはありますよね。モードの世界に憧れていたということですが、今の早坂さんはメークだけでなく、著書の執筆やイベントでの登壇、女性誌でも活躍されたりと、仕事の範囲が多岐にわたっていると思います。美容に関して包括的にいろいろなことをされている印象ですが、改めて過去に立ち返って、いかがでしょうか。

あんなに何者かになりたかったのに、今となっては自分ができることで人の役に立つならなんでもいいやって思っています。自分を認めてあげられるようになると、何をしていても自分自身でいられるなって。それに、人は多面的なものですし、一つのことではキレイになれないとも思うんですね。だから、肩書きは何でもいいやって(笑)。
また、私は自分が良いと思ったものを人にシェアすることが大好き。メークにしてもインスタにしても本にしても、すべてそれが基本なんですよ。これをしておくと本当にいいよ、こんな良いことを勉強したんだけど、これで人生が変わるよみたいなことをシェアしたいという気持ちが本質的な部分で、それがあれば、何をやっていてもいいのかなと思っています。

柔和な笑顔をたたえながらも、時折真剣な表情で現在までのストーリーを教えてくださったメークアップアーティスト・早坂香須子さん。好きな道にたどりつくまでに葛藤はあるかもしれないけれど、覚悟を決めて進んでいきたいもの。
次回は早坂さんに、ご自身の肌とどのように向き合ってきたかや、オーガニックコスメとの出会いなどを伺います。ご期待くださいね。



早坂 香須子

ビューティーディレクター
メークアップアーティスト

1973年生まれ。看護師として3年間大学病院に勤務後、メークアップアーティスト・yUKI氏のアシスタントを経て1999年に独立。国内外の多くのモデル、女優のメークを手掛ける。
自身がさまざまなタイミングで自然の治癒力に助けられたことから、アロマテラピー・植物学を中心としたオルタナティブな療法を学び、2013年にAEAJ認定アロマテラピーインストラクターの資格を取得。
近年はメークにとどまらず、オーガニックプロダクトの監修やトークショーでの登壇をはじめ精力的に活動している。女性誌やSNSではそのライフスタイルも話題に。著書に「100%BEAUTY NOTE 早坂香須子の美容A to Z」(KADOKAWA)など。

Instagram @kazukovalentine

Posted:

2017/11/06

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